出版・書店 業界 NEWS BOOKSルーエ


出版書店 業界NEWS TOPへ > 記事閲覧           新文化 定期購読 受付  

書店マージン改善持続可能な出版配送へ/出版流通改革の具体策を説明/NIPPANConference2021
日時: 2021/07/08 14:59:31
情報元: 日書連

日本出版販売(日販)は、取引先の書店、出版社に対して同社の方針を発表する「NIPPANConference2021」を動画配信した。新型コロナウイルス感染拡大を鑑みリアルでの開催に替えて行ったもので、「100年続く出版流通の未来」を掲げ、データと配送をオープン化して取引構造改革とサプライチェーン改革に取り組むとして、実現に向けた具体策を説明した。
始めに基調報告を行った日販グループホールディングスの吉川英作社長は、連結・単体とも増収増益になった2020年度決算について説明し、日販単体では4年ぶりの黒字決算で、書籍返品率が28・7%と30年ぶりに20%台になったことが貢献したと報告。2001年に自らが陣頭指揮を執りスタートした「トリプルウィンプロジェクト」について言及して、「POSデータを活用し、サプライチェーン・マネジメントを実現させ、返品率を下げ、業界3者がWinWinの関係となることを目指した。返品率は前期でやっと28・7%に達したが、このプロジェクトではもっと早期に25%到達を目指していた。スピード感という点では大きな反省をもっている。出版輸配送は業界のダウントレンドに比例して疲弊し、今日ではサステナブルな輸配送が大きな課題になってきた。出版業界では出版流通改革がいろいろなところで話題になっており、我々も力を合わせ進めていきたい」と話した。
続いて、出版流通改革の方針について日販・奥村景二社長が説明した。奥村社長は、1冊の本を届けるために必要な運賃は、14年度の8・7円から20年度は13・8円と約5円上昇、運賃の実額に換算すると約48億円になるとし、配送効率の悪化がもたらすインパクトの大きさを強調。こうした現況を踏まえて戦略を組み立てたとして、「我々の考える出版業界のあるべき姿は、出版物の多様性を守り、書店が儲かる構造を作ること。日販は創業以来、文化を担う出版物を、そこから生まれる心の豊かさを、読者に届け続けてきた。100年続く出版流通の未来を目指し、皆様とともに改革に取り組む」と決意を述べた。
01年にスタートした「トリプルウィンプロジェクト」は、単品レベルのマーケット情報をネットワーク上で共有し、市場ニーズに基づいた生産・流通・販売を実現する戦略で、09年には業界の無駄を収益に変えていくために、より買切志向を強めた取引制度改革に取り組んだと振り返り、「業界3者がオープンな環境で情報を共有することでプロフィットを生み出し、それをシェアしていくという思想は今も変わらない。『オープン』というキーワードのもと、当時の思想を現在のテクノロジーを使い進化させ、その範囲を一層広げていく。データと配送をオープンにするという2つのテーマに取組み、取引構造改革とサプライチェーン改革の実現を目指す」と打ち出した。
データについては、業界の基盤となる「オープンデータプラットフォーム」の構築を目指す。これまで同社が進めてきた「オープンネットワークWIN」を、業界プレイヤー間の垣根もデータの枠も拡張し、データに基づく需要予測や、業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)による効率化、業界3者による在庫連携を行うことで、「限りなく返品のない世界を目指す。無駄を減らし、出版物の販売金額が減少し続ける環境でも安定的に利益を創出できる状況に変えていく」と述べた。
配送のオープン化については、「配送コースの再編」「様々な商材との混載」「異業種との共同配送」の実現を図る。他商材を出版配送に取り込むとともに、出版物を他業種配送へ乗り入れを行い、積載率が向上することで、配送効率が維持され、ひいては出版社に運賃負担を求め続けることのない構造ができ、持続的な出版配送に転換できると述べた。
改革の具体策について説明した安西浩和副社長は、まず取次業界のコスト削減の取り組みについて、トーハンとの雑誌返品業務の協業、雑誌送品拠点の集約、楽天ブックスネットワークとの協業範囲拡大を行っているとし、この他にも取次業務のDXや見直しを進めていくことでコスト削減効果を広げていくと述べた。
そして安西副社長は、「取引構造改革」と「サプライチェーン改革」に取り組むと言明した。「取引構造改革」は、返品減少を通じて新たなプロフィットを生み、書店の収益を改善することであり、マージン30%を実現していくと説明。これまで進めてきた「アドバンスMD」「近刊予約サービス」「リリーフA」「ストックサポート」の書店発注サポートサービスや、日販グループ書店で返品率15%以下・マージン30%を目指す「PPIプレミアム」、MPDとTSUTAYAが実施した雑誌の買切・時限再販スキームと書籍買切など、先行して取り組んだ事例の成果から、返品率やマージン改善の目標を実現する道筋が見えてきたとして、「より多くの書店、出版社に参加いただくため、これまでのノウハウを1つのパッケージして新たな『PPIプレミアム』として提案する」と述べた。
新たな「PPIプレミアム」は、日販と出版社の間で、返品率15%と売上目標を前提に満数出荷し、書店のマージンが30%となる仕入条件を締結。日販と書店の間では、「発注は基本的に日販に任せ、発注・返品ルールに基づき店頭で重点販売していただくことでマージン30%をお約束する」と説明。返品が15%を超過した分は日販が負担する。21年度は、参加書店における「PPIプレミアム」の売場シェアを30%、特にグループ書店では先行して売場シェア50%にして返品率15%の実証を開始。23年度には参加書店で売場シェア50%を目指す方針。
取引構造改革ではもう1つの柱として、オープンデータプラットフォームの拡張と需要予測に取り組む。「オープンネットワークWIN」に、近刊予約、出版社在庫、購買履歴などのデータを拡張しAIなど新たなテクノロジーを組み合わせて、より精度の高い需要予測の実現を図っていく。
「サプライチェーン改革」は、店着時間指定などのルールを緩和して効率的なコースに組み替え、併せて本以外の商材を取り込むことで、持続可能な出版配送を目指す。積載率を上げることで、出版物の流通量が減ってもこれ以上運賃効率が悪化しない状態にしたいとして、「出版社、納品先、運送会社という全てのプレーヤーが協力しルールを変えていくことが必要だ」と訴えた。
メンテ

Page: 1 |