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【 電子書籍を書店経営の力に 】
日時: 2012/08/01 13:22:24
情報元: 日書連

 日書連電子書籍対応部会の鶴谷祿郎部会長(青森県五所川原市・鶴常書店、前青森県書店商業組合理事長)は、7月6日の東京国際ブックフェア専門セミナーで「電子書籍をこれからの書店経営の力に〜紙と電子の融合によって書店の経営革新と新しい市場の創出を〜」と題して講演した。

〔紙も電子も書店で扱うべき〕  2010年にさまざまな電子書籍サービスが登場し、マスコミが電子書籍元年と書き立てました。

日書連の中にも、電子書籍が増えると我々の商売は一体どうなるのだろうという危機感がありました。

そこで、日書連の指導教育委員会で研究を始め、理事会でも勉強会を行いました。

 今まで我々は読者のために本の出会いを作り、良書の普及に努めてきました。

また読者のいろいろな要望を出版社、取次に伝えてきました。

これは書店の当然の使命と考えてきましたので、紙であれ電子であれ、読者に対してはやはり書店が責任を持つべきであると一致しました。

それで日書連としても取り組んでいかなければいけないテーマだということになったのです。

 出版業界は、1996年から右肩下がりです。

こういう時代ですから、出版社や取次は効率主義で、大書店やナショナルチェーンに優先的に商品を配り、全国の中小書店は欲しい本がなかなか手に入りません。

半ば諦めかけていたところに電子書籍が登場し、これで何とかできないかという見方が出てきました。

その中で、指導教育委員会に電子書籍対応部会が設置されることとなりました。

 部会で提携する会社はないかと調べていたところ、ウェイズジャパン(以下ウェイズ社)から、電子書籍市場において書店の役割をしっかり確保する形で、電子書籍事業を始めたいという提案がありました。

大手書店が提携してやっている電子書籍サービスはいくつかありましたが、中小書店を対象にしたビジネスモデルはここだけだったのです。

ウェイズ社からは「書店は地域の読者や社会と密接に関係している強い絆がある。

私たちもこれを重視したい」という話をうかがい、これならパートナーとして大丈夫だと腹を固めました。

それで昨年6月30日、日書連は電子書籍事業に参入すると正式に発表し、準備に入りました。

〔ロイヤリティを永続的に還元〕  部会では、事業モデルの設計や、各種契約書のひな型作りをしました。

昨年12月15日、日書連とウェイズ社は「電子書籍販売事業基本協定書」を締結しました。

その第1条に事業の目的として「文字活字情報文化の振興のために実施するものであり、これからの読者の読書生活と書店事業の発展に寄与する事業でなければならない」と定めています。

我々の仕事は文字活字文化を広めることであり、電子書籍もその路線の1つだという認識です。

 また部会では、各書店組合とウェイズ社が締結する「電子書籍販売事業基本契約書」や、書店とウェイズ社が結ぶ契約書のひな型を作成しました。

具体的な事業は、各組合が主体となって行います。

 電子コンテンツを販売するのは、ウェイズ社が運営するプラットフォーム「雑誌オンライン+BOOKS」です。

電子書籍サービスの参加書店は、店頭で、電子書籍の購入に使うプリペイドカード3種類(1500円、3000円、5000円)を販売します。

お客様が購入してプラットフォームで会員登録すると、購入したお店の所属ユーザーとして認識されます。

以降、お客様が電子コンテンツを購入した金額に応じてロイヤリティが各組合に支払われ、読者の所属書店に分配されます。

 このようにロイヤリティが永続的に入るのが、日書連の事業モデルの大きな特色です。

現在、いろいろなプラットフォームが出ていますが、我々が主流と位置づけられるよう頑張っていかなければならない。

そのためにも、全国にある地方出版物も配信するようにしたい。

他のプラットフォームにはないものをという意識で、日本の全ての文字活字文化を配信するサービスにしたいと考えています。

 青森県組合は今年1月19日にウェイズ社と第1号契約をして、1月31日に青森市で事業開始の共同記者会見とセレモニーを行い、電子事業サービスを開始しました。

東京組合でも同日に先行販売という形でスタートしました。

現在、ウェイズ社と契約を締結した組合は15組合、参加書店が139店になっています。

今年度は事業の第1期として、店舗参加率30%超を目標にしており、各組合で研修会を開いていただきたいと要請しています。

〔需要の創造で収益性改善図る〕  事業を始めてふた月ほどたってから参加書店にアンケート調査を行いました。

今後3年間の時間軸の中で、事業に対する要望や期待することを聞いたところ、すぐに実現を望むのは「コンテンツを充実して欲しい」ということ。

1〜2年の間では、アマゾンが既に行っている「いろいろな読者サービスシステムを構築して欲しい」ということ。

3年目では「電子書籍が書店の安定した収入源になっているようにする」ということでした。

日書連はこの3点にスピード感を持って取り組まなければいけないと思っています。

 電子書籍の可能性についてはいろいろと言われています。

品切れや絶版については、ブックオンデマンドサービスで対応できる時代になってきている。

また、店頭に並んでいる商品とはひと味違う商品を扱うことも今後の課題です。

将来的には各組合でそれぞれに特色ある事業展開を図っていくことも考えています。

 いま書店が非常に疲弊している理由は、何も品物が欲しいときに来ないというだけではない。

品揃えのために在庫を多く持たないと競争に勝てない現実があります。

書店に電子書籍を加えることで、在庫投資を軽くし、資本回転率をアップして書店経営の改善を図りたい。

第2期以降のテーマとして取り上げていくところです。

 検討を進める中で、電子書籍というのは、読者サービスのシステムや、店頭で読者が閲覧できる情報サービスのシステムが整わないと、紙のように販売促進をかけるわけにはいかない商品であるということがわかってきました。

ウェイズ社には、早急にシステム開発してほしいと要請しています。

紙と電子が融合していく中で、いろいろなタイプの書店が生まれてくる。

その具体例についても今後研究していく方針です。

 この事業はまだ始まったばかりですが、確信を持って言えるのは、電子書籍とは紙の書籍と対にあるものだということです。

出版社には紙と電子両方のコンテンツを揃えていただきたいと思います。

電子書籍を導入することによって、今まで全国の中小書店が苦労してきた物流問題を解消するばかりでなく、紙と電子を結びつけることで新しい需要を生み出し、書店経営の収益性の低さを解決してくれるものと期待しています。

 地域の医療を担当する地域のお医者さんというのがあります。

「おじいさんとお父さんがガンで亡くなっているから、あんたはガンの健診をまめにやってくれよ」というように、家族構成などをよく知っているお医者さんが健康を心配してくれる。

同様に、「お孫さんが生まれましたね」というように本に関してこまごまとしたことに対応できるのは地域の書店だと思っています。

電子書籍はそれを復活させてくれる商材であると期待しております。

 かつて、多くの書店創業者に志がありました。

文明開化の明治時代は、教育制度の整備とともに、教育と文化の普及のために書店は全国に広まっていきました。

戦後は、民主主義と平和主義、自由と文化の普及のために、戸板に古本と雑誌を並べ書店を開いたという今日の大書店の創業者も数多くおります。

 電子書籍の時代となって、地域の書店は高度情報化社会の中での情報弱者への対応を含めた、地域のコミュニケーションセンターとしての役割が期待されております。

電子書籍は正に志を持つ書店の復活を成す商材となるものと考えております。
メンテ

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