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首都圏栗田会の講演会、「紙と電子書籍」大沢在昌氏が“予言”
日時: 2010/07/27 07:56:22
情報元: 新文化

ベストセラー作家・大沢在昌氏は7月14日、首都圏栗田会の第2部で書店と電子書籍をテーマに講演し、本の粗製濫造を続ける出版社や読者ニーズに応えていない書店店頭を指摘して、業界人に苦言と提言をぶつけた。

大沢氏は出版社と書店の給与格差など、タブー視されていた業界の現実に踏み込みながら、プロの書店人が育たず、新刊の大量生産のなかで棚が作れない書店や、それによって欲しい本が見出せないでいる読者の実際を語った。

電子書籍と紙の本は「最短5年で5対5の割合になるかもしれない」と予言した。

大沢氏は「本が売れなくなった理由」について、第一に新刊点数の多さを指摘した。「取次会社の金融機能に依存し、自転車操業になっている出版社がいけない」とし、「それによって実務作業に忙殺され、読者の目線で棚を作れない書店の弊害がある」と述べた。

大手出版社の給与が書店の3〜5倍である現実に触れ、その格差からプロの書店人が育ちにくいと苦言を呈した。「これは書店のせいだけじゃない」としながらも、著者別に棚を作るブックオフに対し、いまだ出版社・レーベル別に商品を並べている書店を嘆いた。

「出版社は『売りたい本』か『売れる本』しか作ってはいけない。『売れるかどうか分からない本』はもう作らないでほしい」とし、資金繰り目的で粗製濫造を繰り返す業界構造を批判。「本を買って良かったと思える読者の成功体験や、本が面白いと思わせることが必要である」と提言した。

また、電子書籍については「紙の本が売れなくなるとは思わない」としながらも、「紙の本が減るのは避けられない」「紙の本と電子書籍の割合は最短五年で五対五になる」と予測した。

さきごろ京極夏彦氏が講談社から上梓した『死ねばいいのに』の紙の本が「近年の作品のなかでおよそ2倍の実績」という7万部を発行したことには、「記者会見を通じたプロモーションの勝利」と分析。また、作家・著者が出版社や書店を中抜きして電子出版しても、出版社の宣伝や書店店頭の露出がなくなることで「大量の商品に紛れてさらに売れなくなるだろう」と本の告知・プロモーションの必要性を説いた。

さらに、リアル書店の生き残りについては「地域の読者ニーズに沿った本の仕入力」を最優先課題とし、「読者に相対して本を勧めることができる書店はなくならない」と語った。近年、歯止めがかからない廃業店の増加は「言うまでもなく、電子書籍のせいじゃない」とした。

今後、出版社がアンテナショップとして、または出版社同士の共同出資から直営書店を出店することもあるだろうと話し、「著者・印刷・製本・取次会社・書店など皆が、サバイバル競争になる」と述べ、今後さらに厳しい時代に突入していくことを伝えた。

質疑応答では、電子教科書や電子書籍化による海賊版などの質問が続出し、会場は熱気に満ちていた。

(新文化 本紙2010/7/22号掲載記事から)
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