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【 電子書籍元年といわれる今 出版界が取り組むべきこと 】
日時: 2010/05/08 08:50:04
情報元: 日書連

全国出版協会出版科学研究所は3月29日、東京・千代田区の中央大学駿河台記念館で電子書籍フォーラム2010「おしよせる『書籍から電子書籍へ』の世界潮流〜電子書籍の最先端事情と関わり方を考える〜」を開催。

出版社など370名が参加して会場は超満員。

この問題に対する出版業界関係者の関心の高さをうかがわせた。

この中から東京電機大学出版局局長・植村八潮氏の講演内容を抄録する。

〔文字中心のキンドルは苦戦か〕 「電子書籍元年」と言われて話題になっている。

皆さんが今日会場に足を運んだのも熱気ではなく不安からだと思う。

「ビジネスチャンスが来た。

これから電子書籍をやるぞ!」というよりは「大丈夫。

定年まではなんとかもちそうだ」と思って帰りたいのではないか(笑)。

 「キンドルが上陸していない日本には電子書籍という市場がない。

一方アメリカでは成功している」――日本人の大部分はこの程度の認識しか持っていない。

少し分かっている人でも、日本ではかつてソニーやシグマBook等が先駆けて失敗したということしか知らない。

しかし、そうではない。

電子辞書という成功例がある。

極めて日本的な成功例だと思う。

日本文化に根差した電子出版や電子書籍を日本はやってきたのではないか。

 日本発のケータイ小説はアジアに大きな影響を与えている。

日本の携帯はガラパゴスと批判されるが、文化はドメスティックなもの。

出版は極めてドメスティックなものだから、ケータイ小説を生み出した日本の携帯は素晴らしい。

 日本の電子書籍LIBRIeやシグマBookの失敗について、出版社がコンテンツを守って出さなかったからだという言い方がされている。

しかし一番大きな理由は、そもそも私たちはeブックリーダーで本を読まないということに尽きる。

日本に上陸しても文字中心のキンドルは市場で言われるほど売れないだろう。

新しモノ好きが買って、ツイッターなどで素晴らしさを書きまくるだけ。

ただ、確信をもって言うが、iPadは売れる。

だからiPadのコンテンツをやるかやらないかという問いかけはしておく必要がある。

〔日本型水平分業モデル構築を〕 日本型のコンテンツ流通モデルを考えたい。

アメリカにおける成功例と言われるアマゾンのキンドルやアップル、グーグルは巨大メディア企業による垂直統合型モデルだが、それは健全と言えるだろうか。

日本のどこが素晴らしいかというと、それは水平分業であること。

音楽配信サイトは1000社・1万サイト、書籍配信サイトもすでに200社・1000サイトを超えている。

出版社と書店の数を考えたとき、水平分業が日本的な素晴らしさ、つまり机と電話さえあれば誰でも出版産業に取り組めることを評価したい。

 水平分業的な日本の出版産業をどのようにしてITに継続させるか。

環境が激変する中で今までと同じことをやろうとしたら、出版社でなくても潰れる。

環境の変化をきちんと見ることが大切だ。

出版社の果たしてきた役割をどう継続させるか。

我々はかつて経験したことのない産業規模の衰退の渦中にいる。

私たちが豊かに暮らせるよう、新しい産業を育てる方法を考えねばならない。

 今や出版の外の世界では膨大な文字情報があふれている。

ケータイメール、SNS、ツイッターなどで膨大な文字情報が流通している。

若者の文字離れなど起こっていないのだ。

若者は文字の洪水の中にいる。

膨大な文字を発信し読み処理するために、常にケータイ、iPhone、iPadを持っている。

90年代のマルチメディアの行き着いた先は膨大な文字情報の世界だった。

私たちはそれをビジネスにできていない。

 ジェフリー・ムーアの「キャズム」という理論がある。

先駆的なユーザーと一般的なユーザーの間にある溝のことで、この溝を超えると普及が進むという考えだ。

多分キンドルはキャズムを超えない。

ビジネスとして黒字にすることはできるかもしれない。

でも、書籍全般が置き換わるようなものには絶対にならない。

今後キャズム超えをしたものが新しいメディアを作り上げることになる。

〔出版社ブランドの信頼性活用〕 アマゾンは電子書籍の売上げよりもキンドルの売上げが10倍以上ある。

アマゾンがやっていることは電子書籍コンテンツを集めてキンドルを直売しているだけだ。

電子書籍コンテンツを釣り餌にしてデバイスを売っているという皮肉な見方もできる。

 キンドルが日本に上陸するのは、コンテンツの数ではなくベストセラーが手に入るかどうかにかかっている。

彼らはロングテールでは食えないと知っている。

一番売れる本は新刊だから、圧倒的新刊を扱わなければ電子書籍市場は立ち上がらないことをわかっている。

 コンテンツ化で出版社がやってきたことは「信頼保障」。

コンテンツの信頼性や品質を高めることだ。

出版社のブランド力はそこにある。

ネットでキーワード検索して、どこの誰かわからない○○君のブログと出版社のページがヒットしたら、どちらを信じるだろうか。

出版社が作りあげてきた信頼性に私たちは絶大な信頼を置いている。

あとは、それをどうビジネスにつなげるかということだ。

文字コンテンツに信頼性を見出していく私たちの仕事をいかにITの枠組みの中でビジネス化していくかが、今、問われている。
メンテ

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