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【 雑誌力の強化は出版市場を拡大する 】 日書連
日時: 2007/07/04 10:27:55
情報元: 日書連
参照: http://www.shoten.co.jp/nisho/bookstore/shinbun/view.asp?PageViewNo=5890


 日本雑誌協会理事長で主婦の友社会長の村松邦彦氏は6月5日に行われた大阪屋友の会連合大会で『雑誌力の強化は出版市場を拡大する―雑誌の現状と将来展望』と題する特別講演を行った。

〔「雑高書低」が逆転した〕 雑誌全般に厳しい状況が続いている。

私が社長になって8年だが、昨年、雑誌が赤字に転落した。

雑誌部門は販売65億円、広告55億円で、120億円の売上げがあるが、2億1千万円の欠損を出した。

雑誌協会の理事長になった途端、会社が赤字を出してしまった。

 主婦の友社の雑誌20誌のうち11誌が赤字で、出荷減、返品増、広告減の三重苦になっている。

書籍・ムック部門は販売75億円で、利益が15・6%、11億7千万円出た。

かつては雑誌で利益を出し、書籍の赤字を補ったものだが、いまや逆転現象を起こしている。

 それ以外に海外版権として中国に5誌、タイ2誌、台湾4誌。

書籍は中国、韓国、台湾、タイに版権を出し、4億円の売上げで2億5千万円の黒字がある。

新規事業としてデジタル化の先行投資もしており、この売上げが5・5億円で、赤字が2・9億円。

売上げ合計は205億円、営業利益が9・2億円で4・2%の利益率だったが、最も大きな雑誌部門が赤字になって先行きを危惧している。

〔この10年で変わったもの〕 雑誌の現状を10年前と比べ検証してみたい。

1996年に雑誌の総発行部数は51億2千万冊だった。

2006年は40億冊で、11億2千万冊減少した。

21・8%の落ち込みだ。

 売上げは10年前の2兆1440億円が昨年は1兆8620億円と、10年前の86・8%。

13・2%落ち込んでいる。

返品は10年前の27・1%が34・5%に増加した。

金額にして1840億円。

このうち65%が書店と考えると約1200億円の返品増で、1店あたり年間680万円。

これがそのまま利益なら、書店には大きなプラスになる。

 市場金額でいうと1996年は約3兆円の出荷があり、2006年も2兆8500億円。

1千億円ちょっとの減少で済んでいる。

定価も418円から465円へ11・2%増加した。

結果的に返品増が売上げに大きく影響しているわけだ。

 広告もピークから比べると約500億円減少した。

インターネット、フリーペーパー、フリーマガジンの増大による影響が大きい。

 雑誌を読んでいる人口、12歳から69歳の読者は10年前とほとんど変わらず約8割ある。

特に10代、20代は90%が雑誌を読んでいる。

 雑誌低迷の原因はいろいろあるが、一番大きな原因は書店の減少だろう。

書店は10年前、約2万6千店あった。

昨年は1万7600店となり、8千店以上減少した。

1年に800店なくなった。

廃業店が年間2700万円売ると仮定すると2160億円の市場が減少したことになる。

中小書店の廃業を大型店、CVSでカバーしても、せいぜい1割から1割5分だろう。

 2番目の問題は少子化で、0歳から14歳までの人口は10年前に比べて250万人減った。

15歳から64歳までは313万人減少し0歳から64歳まで合わせると563万人のメイン読者が減ってきた。

仮に一人平均年間1万7千円買うとすると約960億円が少子化によって減少している。

今後、シニア層の雑誌をどう開拓していくか、一人の読者に2冊、3冊買わせることが販売戦略になる。

 フリーマガジンは500誌、1億3千万冊。

フリーペーパーは700誌、1億6千万冊と言われる。

実態はもっとたくさん出ている。

フリーペーパー市場は推定30億冊近い。

定価換算すると600億円前後の販売が喪失し、広告が500億円減収した大きな原因になっている。

 ただ、最近のフリーマガジンを見ていると、昔は1日でなくなったが、最近は3日、4日と残っている。

コンテンツがしっかりしているわけではないので、大きな脅威になることはないだろう。

気になるのは店頭にフリーマガジンを置いている書店のあることで、これだけはやめていただきたい。

読者に情報はタダでもらえるという意識を植え付けていく。

目先の1部30円に惑わされないでほしい。

 キオスクの苦戦も駅にフリーペーパーを置き始めて客が減ってきたことによる。

客は雑誌、新聞を買うついでにガムやアメを買っていく。

昨年の書店の雑誌販売は前年比96・7%、CVSで98%程度だが、キオスクは86%に落ち込んだ。

 雑誌を読む時間も減ってきた。

インターネットは8500万人、携帯電話も9500万人に普及している。

しかし、携帯電話で雑誌を読むことはできない。

インターネットで雑誌を読むのも疲れる。

アメリカでも、雑誌はインターネットでは普及していない。

紙媒体であると言われている。

むしろ書籍を携帯電話で読む層が増えている。

 4つ目は図書館の雑誌購入が広がってきた。

市立図書館でも、100誌近い雑誌が置いてある。

年間80万円の予算にしても、全国で3000館となれば、かなり大きな売上げ減少につながる。

回読率も『主婦の友』の回読率3・4回が4・5回に増えている。

 5つ目にマンガ喫茶が拡大している。

これについてはどの程度、雑誌が回転しているか推定はむずかしいが、影響していることは確かだ。

先般、貸与権センターでレンタルコミックの著作権料が決まった。

1店あたり月間140冊販売されている。

レンタルコミックの加盟店は500店あって、12カ月で推定すると約84万冊がレンタルコミック店に販売されている。

採算は10回転と考えていて、コミック全体で年間50億円程度の影響を受けている。

 かつては日経BPが中心だった直販誌も、最近は一般誌に拡大し、版元が読者に直送する定期講読も増えている。

これをどうやって取り戻すか。

私がチャンスだと思うのは、直送の8割はクロネコヤマトの宅急便で配送している。

ところが、クロネコが「発売日に届けることはもうできません。

雑誌は別個にメール便で行います。

もし発売日に指定するなら1部100円いただきます」と言ってきた。

雑誌で100円は負担できる金額ではない。

そうなればクロネコに頼んでいた直送便を書店を通して売っていきたいとなるわけで、書店が定期購読を獲得すれば大きな市場になる。

 読者が雑誌嫌いになったわけでも、雑誌を買わなくなったわけでもない。

近くに書店がなくなれば直送で送らざるをえなくなるし、最寄の書店で買うことができなくなれば遠のいていく読者も増える。

〔業界全体での意識付け〕 出版社の問題としては、発行点数が増え競争が激化してきた。

2006年は161誌が創刊し、167誌が休刊した。

この10年間に創刊された雑誌は1878誌、休刊が1520誌。

差し引き358誌増えた。

書店にとっては店頭に置ききれない。

日本の雑誌は約4千誌だが、人口が7割程度の英国は9500誌出ている。

スクラップ&ビルドを繰り返しながら、かなりきめ細かい読者ターゲットに絞り込むことによって雑誌が活性化している。

 日本でも大量部数はむずかしくなるので、ターゲットを明確にした雑誌づくりが改めて問われる。

そのため編集力を強化しないといけない。

雑誌が増えるに従って編集長になる器や編集の人材も薄まり、雑誌力が低迷した。

編集者の再教育をしていく必要もある。

 もうひとつ困った問題は宣伝だ。

かつては新聞広告で宣伝すればすんだが、最近は新聞離れで若い人は新聞を読まない。

インターネット、携帯を使い、鉄道の中吊りを使いながら宣伝をしているが、ネット、携帯は不特定多数であり、絞り込んだ宣伝がむずかしい。

 書店に定期購読の拡大をお願いするにあたっては、出版社は宅配への送料支援を考えていただきたい。

1誌50円かかるとすれば、その半分は出版社が負担する。

あるいは責任販売制として返品率を減少させ、部数を増加した中で書店に還元していく。

 出版社がデジタルで読者にアプローチすることも出てくるわけで、書店も定期購読を取ることによってデジタルの販売も考えていただきたい。

雑誌『エフ』でデジタル展開をしているが、一般的に宣伝し、ヤフーや楽天と組んでもなかなか部数は増えない。

先般、北京のFIPP雑誌世界大会で欧米各社にも聞いたが、デジタルで採算を取るのはきわめてむずかしいと言っていた。

アメリカは10年近く前からデジタル化を推進しているが、利益が出るのはレアケースで、本来の紙媒体をしっかり売ると同時に、デジタルも書店と一緒に販売していく仕組みを作っていけば成果が出るかもしれない。

 雑誌協会は何とか雑誌増売運動に取り組もうと「雑誌ハンドブック」を作成することになり、初めて予算をとった。

雑誌売り名人発掘、店頭売り伸ばし実例集としてブログで成功例を募集している。

 雑誌はお客にきてもらう一番大きな武器だ。

年間12回転する。

書籍は3回転か4回転。

効率がよいと同時に、雑誌を買いにきた読者が書籍も買っていく。

陳列期間もぜひ次号が出るまで置いていただきたい。

2週間でいいという考えもあり、確かに2週間で85%の売行きだが、残り2週間で15%売れる。

途中で切れば返品増。

次号が出るまで売ればロングテールの販売になる。

発売日にはPOP、次号予告の宣伝をしていただく。

店頭で定期を獲得する仕組みを作る中で、チラシなどの宣伝物は出版社に要求してほしい。

CVSとの差別化をきちんと図るにも定期購読は重要だ。

 全国小売書店実態調査にあるように中小の本屋に地域密着型商品の雑誌がいかない。

取次は配本の見直しをやっていただきたい。

店頭であれ配達であれ、定期購読部数と、店で販売する部数を分けて送ることも考えていいのではないか。

システムを変えることになるが、ロスの無い販売機会を提供してもらいたい。

 部数を増やしていけば、どうしても返品が増えてくる。

先般も中国地区の書店が年間11%近い雑誌増売をしたが、30、40の返品が45になることもある。

すると翌月部数が減らされる。

雑誌は生き物で、その月によって売れるものも売れないものもある。

部数も6カ月ぐらいのロングで見てもらいたい。

大阪屋は定期購読を積極的に取っていただいているが、出版社に対し配達支援の仕組みを提案してもらいたい。

 もうひとつはデリバリーを統一してはどうか。

トーハン、日販、大阪屋がそれぞれ配本しているのは大変なロスだ。

アメリカでは地域によって雑誌の表紙が違い、広告も違う。

日本では全部東京で作り取次ごとに配送しているが、デリバリーを統一して北海道・東部はトーハン、中部は日販、関西は大阪屋と配送できれば大きなプラスになる。

印刷も大阪でできる。

広告も大阪で取れる。

高い運賃を払って東京から大阪まで運ぶことはない。

 常にお店をリニューアルしていかないと、お客は3年から5年で必ず離れていく。

その時、お店をリニューアルすることでお客を呼び戻していく。

そういう先行投資がない中では継続した売上げ増はむずかしい。

出版社もぜひ書店のいろいろな政策について十分検討して、できるだけ応えていく姿勢をもっていただきたい。

 なぜ雑誌が増えていくことが業界の発展につながるかというと、雑誌はコンテンツを創造していく。

文芸誌も経済誌もコミック誌も二次、三次使用ができて大きな利益をあげていく。

また宣伝媒体として自社の書籍だけでなく、ありとあらゆる書籍を紹介している。

300億から400億円近い宣伝媒体の価値がある。

 FIPP北京大会のテーマもほとんどデジタルだった。

小学館相賀社長と電通俣木社長が「雑誌は編集力である」という基調講演をされた。

原点はコンテンツであり、紙媒体だろうがデジタルだろうがコンテンツのよしあしによって読者に感動を与えることもできる。

これから電子媒体は増えていくだろうが、編集力を強化しながら紙媒体の持っている良さを広く読者に訴え、日本の縦書き文化をしっかり守っていく。

それが文字活字文化の振興にもつながっていくのではないか。

 韓国は高速ネットができたが、雑誌が低迷しているのはコンテンツの問題だ。

日本ほどきめ細かく作られている雑誌はない。

『レイ』は1冊で2800枚から3000枚の写真を載せている。

欧米も日本の雑誌に学びたいと言っている。

日本の雑誌はコンテンツを非常に大事にしてきた実績があり、まだまだ紙媒体は強くなっていくと思う。

 雑誌はもう駄目だとか、出版界は低迷していくと言われてきたが、決してそんなことはない。

志をしっかり言葉に表していく力があれば、読者は離れない。

今一度、雑誌拡売に真剣に取組んでいただきたい。


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