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21年文庫本市場/4・2%減の831億円/既刊本は健闘するも9年連続減少
日時: 2022/05/27 19:15:45
情報元: 日書連

出版科学研究所発行の『出版月報』3月号は「文庫本市場レポート2021」を特集。これによると、昨年の文庫本(コミック文庫を除く)の推定販売金額は前年比4・2%減の831億円。既刊の売行きは堅調だったが、9年連続のマイナスとなった。同特集から文庫本市場の動向を紹介する。
2021年の文庫本市場の推定販売金額は831億円、前年比4・2%減だった。20年はコロナ禍の巣ごもり需要で、カミュ『ペスト』(新潮文庫)をはじめ既刊の売行きが健闘し、同3・8%減と14年以降では最も減少幅が小さかった。21年も既刊の販売は引き続き堅調だったが、ライトノベル文庫が同13・4%減と大きく落ち込んだこと、ベストセラー作品の部数規模の縮小、新刊点数減少に伴う送品の純減などでマイナスになった。推定販売部数は同5・2%減の1億1885万冊で、市場は10年前のおよそ半分に縮小した。
新刊点数(コミック文庫除く)は同3・9%(268点)減の6639点で、7年連続の減少。前年のようにコロナ禍で新刊刊行を延期・中止するケースはほぼなくなったが、各社が軒並み点数を減らした。
出版社別に点数を見ると、KADOKAWA(96点減)、双葉社(52点減)、光文社(26点減)、スターツ出版(25点減)、祥伝社(21点減)、文藝春秋(18点減)、中央公論新社(12点減)と点数を減らした社が多かった。一方、文芸社(48点増)、ハーパーコリンズ・ジャパン(40点増)、東京創元社(25点増)、集英社(19点増)、オーバーラップ(14点増)などは増加した。21年に創刊された文庫は6シリーズだった。
返品率は同1・0ポイント減の34・3%で3年連続の改善。取次各社が返品改善策を年々強化するとともに、出版社も実績に見合わない部数を極力刷らないという取り組みが成果をあげている。初版・重版部数の抑制に加え、書店の規模別でのランク配本見直し、書店フェアの際のセット出荷を中止といった動きも返品減につながっている。
出回り平均価格は、同8円(1・2%)増の699円。新刊平均価格は同9円(1・3%)増の732円といずれも上昇した。既刊の価格改定や、レーベルごとの価格見直しなどを各社が実施したことと、印刷用紙の高騰もあり、価格の上昇傾向が続いている。このトレンドは、学術文庫だけでなくエンタメ小説やページ数が多い海外文芸などでも見られ、千円超のタイトルが増えつつある。また、ライトノベルでは、高価な限定特典を付けて定価が2千円から1万円以上もする特装版の刊行が増えていることも影響している。
POSデータで新刊と既刊の販売比率を調べると、21年は新刊45・3に対し既刊54・7となった。20年は新刊45・5で既刊54・5、19年は新刊48・2で既刊51・8となっており、ここ3年間は既刊の比率がじわじわと上昇している。21年に売れた既刊をみると、SNSでの紹介を機にブレイクしたケースが目立った。筒井康隆『残像に口紅を』(中央公論新社)は7月にインフルエンサーが紹介した動画が大反響を呼び、中公文庫版は8月以降、計14万3千部の増刷がかけられ累計34万7千部となった。名作文庫の売行きも伸び、サン=テグジュペリ『星の王子さま』、太宰治『人間失格』『斜陽』、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』、夏目漱石『こころ』などが20年に続いて堅調だった。
21年のベストセラーを見ると、9月末に緊急事態宣言が解除され映画の公開作品が一気に増えたため、映像化作品のヒットが前年よりも上位を占めた。最も売れた文庫は、瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫、20年刊)で、10月公開の映画もヒットし82万5千部に伸ばした。このほか、東野圭吾『マスカレード・ナイト』(集英社文庫、20年刊、73万部)、中山七里『護られなかった者たちへ』(宝島社文庫、40万部)など、秋以降に映画公開の作品が大きく伸びた。また、辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ文庫、上下巻計60万部)、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫、31万部)など、文庫化されたベストセラーが好調だった。時代小説は、佐伯泰英が引き続き高い人気を得ている。田郁、上田秀人など定番の人気作家に加え、井原忠政「三河雑兵心得」シリーズ(双葉文庫、20年〜)が多くの読者をつかんだ。
21年のライトノベル(文庫本)の推定販売金額は同13・4%減の123億円。18〜19年は2桁減となっており、20年は同0・7%減と健闘したが、21年は再び大きく落ち込んだ。ライトノベル単行本の販売金額はほぼ前年並みとみられ、電子を含めると市場はさらに拡大するため、文庫のみの市場では全体像を読み取れない状況にある。ライトノベル文庫の新刊点数は同5・6%(91点)減の1538点。新刊の平均価格は同9円(1・4%)増の674円。グッズ付き特装版の増加やレーベルごとの値上げが進み、上昇が続いている。
メンテ

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