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【 建設進む韓国・パジュ出版都市 】
日時: 2006/07/27 09:41
情報元: 日書連


 韓国、ソウル郊外の坡州(パジュ)に出版社から印刷・製本会社まで1カ所に集めた出版産業団地の開発が進んでいる。

ソウル国際ブックフェアの取材で韓国を訪問した新聞之新聞社・沼田勝己記者に坡州出版都市の構想と現在の進捗状況をレポートしてもらった。

 6月初め、韓国のソウル国際ブックフェアに行く機会に恵まれた。

同ブックフェアには、24カ国479社614ブース(国内316社388ブース)が出展。

入場者数は23万426人(前年は24万7564人)と、フェアの規模は中位といったところだが、入場者数は23万人と、東京ブックフェアの5万4千人(2006年)を大きく上回る。

 この合間を縫って、以前から興味のあった「坡州(パジュ)出版都市」を取材した。

日本では、一カ所に出版関連機能が集中していることから、単に「出版団地」と呼ばれることが多いようだ。

 出版都市はソウルから車で約30分。

48万坪という広大な面積を持ち、販売を除いて本の企画・編集から、印刷、製本、流通という機能を備える。

主体は出版社142社、印刷会社26社、流通関連その他25社の併せて193社で構成する協同組合で、理事長は美術書出版社「悦話堂」の代表でもある李起雄氏。

出版都市はその李氏の発案によるもので、1989年から計画が始まり、今も建設が行われている。

 李氏は1940年生まれで、都市構想を思い立った経緯について李理事長は、自分自身が育った韓国の古き良き伝統文化や家族の結びつきが、朝鮮戦争によって崩壊してしまった。

加えて1970年からの急激な経済成長で出版需要が伸びたものの、出版関係者はそれにうまく対応できず、読者に誤った情報を提供してしまったことに対する反省からだという。

 李氏は友人に計画を話して出資を募った。

すると思いもかけず、100億ウォン(約12億円)以上が寄せられ、協同組合を設立して取り掛かった。

しかし周囲からは「無謀」と言われ、冷笑されたという。

それでも、「みんなで見る夢は現実化する」と、仲間を励まし、自分自身を鼓舞しながらやってきたと当時を振り返る。

 現在は第一段階の社屋や関連施設155棟が完成しつつあり、まだ第二段階の工事も進行中で、全体では50%程度の進捗状況とのこと。

李理事長は「都市として機能するにはあと30年は必要」と話した。

建設に当たっては周辺地域の環境に配慮して「草一本もいじらない」というほど徹底している。

 中核となるのは、研究や会議に講演、展示等の幅広い機能を有する「アジア出版文化情報センター」と、一日の出荷量43万9000冊を基準に設計された「出版物総合物流センター」だ。

また、有名建築家が競うように建てた出版社の社屋は、ユニークで斬新なデザインが訪問者の目を引く。

 李理事長は「文化の産業化、産業の文化化」という表現で、文化面を強調しすぎて、都市基盤となる経済性が疎かになることに警鐘を鳴らす。

今後、博物館、ホテル、映画製作スタジオ、映画館など、新たな建築計画を語ってくれた。

 その一方で、ソウルからのアクセスの不便さが仕事に支障をきたすと、移転を止めた出版社や、「行きたくない」とはっきり口にする社員もいる。

また環境重視の方針に、はっきり異を唱える開発業者もいるという。

 今年10月には、昨年に続いて韓国、日本、中国、台湾の出版関係者とのフォーラムをここで開催する。

李理事長はアジア出版人の交流と論議の場としての役割を担いたいとの意欲も示した。

 最後に李氏は「日本は、我々にとって多くのことを教えてくれる東海(日本海)の教科書だ。

独島(竹島)や靖国問題などの政治問題はあるが、両国の出版人は政治問題を排除して、アジア諸国の文化的価値観の建て直しに努力し、ともに精神的な共同体を作っていきたい」とのメッセージを寄せた。

 李氏が掲げる「出版都市」という壮大な構想は今も進行中で変化を続けており、将来どんな形で結実するのか注目してゆきたい。

 参考文献=『韓国の出版事情』舘野ル、ムン・ヨンジュ共著、出版メディアパル刊)。

http://www.shoten.co.jp/nisho/bookstore/shinbun/view.asp?PageViewNo=5227
から引用
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