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売れる「読むところが少ない本」 小説離れ出版常識覆す
日時: 2003/03/04 10:13
情報元: 日経MJ < >
参照: http://www.books-ruhe.co.jp/


出版社最大手の講談社の二00二年十一月期決算が先ごろまとまった。売上高は千七百十二億円で前期比三・二%減、年間べースで千六百万円の当期損失。
赤字決算になったのは戦後初めてのことだという。
一方、設立十年で先月ジャスダックに上場を果たした幻冬舎。
二00三年三月期の売上高は八十二億円、営業利益は二十億円、前の期に比べて売上高は一二%増、営業利益は三七%増を予想している。
老舗と新興出版社の業績は好対照で、時代の変化を示しているともいえる。

◇◆

「二十年前ならこんなものを、本とは言わなかったのだけど」と初老の書店主を嘆かせるのは、流行となっている”読むところが少ない本”。
最近、書店の店頭で幅を利かせているのは、出版界の常識なら本とは呼べなかったような企画性の高い商品たちだ。
例えば、宝島社から出ている「どんどん目が良くなるマジカル・アイ」。
CG(コンピューターグラフィックス)で作られた複雑な模様が数十点収められた本。
この絵をジーッと見ていると、別の模様が立体的に浮かび上がってくる。
この運動を一日三分間続けていると、目の回りの筋肉がほぐれ、近視や遠視にも効果があるという。
二年前の発売以来、シリーズで百二十万部を超えるベストセラーになっている。
アーティストハウスから発行されているのは「アマデウスの魔法の音〜集中力」。
モーツァルト作品の五曲が演奏されたCDと、CDの聞き方とイラストがついた三十ぺ一ジほどの小冊子でできている。
テンポや周波数が調整されたモーツァルトの音楽を聞いていると、精神がリラックスし集中力が高まるという。
ビジネスマンの間で話題になり、米国では二百万部を突破する大ヒット。
日本でもすでに十二万部を発行している。
”おまけ”が主体のヒット商品も目立つ。
デルプラド・ジャパン社が発行している「中世ヨーロッパを作ろう!シリーズ」。
毎週発売されているパーツを組み立てていくと、幅七十五センチ、奥行五十センチ、高さ二十六センチの立派なお城ができあがるというもの。
分冊百科の老舗デアゴスティー二・ジャパン社が出しているのは「週刊セーリングシップ」。
こちらはガレオン船「サン・ファン・バウチスタ号」を組み立てる。
ほかにも宝石や鉱物がコレクションできる「隔週刊トレジャー・ストーン」なども人気だ。

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不況が続く出版業界だが、落ち込みが著しいのは小説だ。
売り上げランキング上位には、実用書やエッセイばかりが並ぶ。
その背景には大人たちの小説離れがあるという。
「今なら横山秀夫の『半落ち』(講談社)が目立つ程度。子供たちはまだ時間に余裕があるせいか、『ハリーポッター・シリーズ』のような大ヒットがでる。大人、特に男性ビジネスマンは忙しい生活で小説など読んでいられないのでしょう」と書店では説明する。
また、かつては感動するために本を読むという習慣があったが、今やテレビに求めるようになったとの声も多い。
送り手側の事情も変化している。
小説家などプロの物書きによる本が減り、アマチュアによる本が急増している。
経済や医療の専門家を起用して本を書かせるという手法が定着しつつある。
冒頭にあげた元気な幻冬舎だが、当初は五木寛之や村上龍、天童荒太などのプロのモノ書きによる文芸路線のイメージが強かったが、三年半前
から企画の”構造改革”に踏み切り、実用書や企画物を強化した。
そのための専門編集者も採用している。
そうした努力が「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本」や「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」などのベストセラーを生み出した。
本の売れ筋を見ていくと「フィクションよりノンフィクション」、「他人を喜ばせる前に自分を磨こう」「心め感動より懐におカネを」に流れがあるのは明白だ。
「出版界の常識からすれば悲しいことだ」(出版社社員)。
娯楽が少なかった時代は、本屋はおもしろいものを探す人で支えられていた。
しかし、娯楽が増えメディアが多様化する中で、本の位置付けはすっかり変化した。
本はまだまだ可能性の残された商品だが、発想を変えない生き残ってはいけない。

(日経エンタテインメント! 前編集長)

品田秀夫のヒットの現象学

日経MJ 2003/2/25 2面より引用 

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